ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫 M つ 4-1)



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ルピナス探偵団の当惑 (創元推理文庫 M つ 4-1)

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二十世紀の黄昏だった「あの頃」

◆第三話「大女優の右手」(書き下ろし)

 ▼あらすじ
  
  上演中の舞台で老女優が倒れ、控室に
  運び込まれるも、まもなく絶命した。

  その後、救急隊が駆けつけたとき、
  彼女の遺体はなぜか消失していた。

  捜索の結果、女子トイレの個室で発見されるも、
  遺体から右手が切り取られていて……。


 ▼感想

  死体移動や右手消失といった奇怪な謎については、
  明確な必然性とトリックの裏付けがしっかりなされています。

  また、探偵役が終盤に関係者を集め、推理を披露するという本格としての
  様式は踏襲されているものの、その行為までが犯人の計画の一部として
  機能している、という構図は90年代の新本格を通過している証といえます。


  そして「最後の一撃」

  どんでん返しのなかで、温かい情感と深い余韻
  に浸らせてくれる鮮烈な幕切れとなっています。

やすみも泰水も良い

作品によって、耽美なホラー(『綺譚集』)であったり、繊細な恋愛小説(『赤い竪琴』)、はたまたノスタルジックな色彩の青春群像劇(『ブラバン』)だったりと、わりと多岐ジャンルにかけて棲息する津原さん。今作では「推理小説」の形態をとっている。ジャンルうんぬんと書いたものの、結局魅力的であるのは、その秘密めいた香りで酔わす文体と、絶妙に洒脱で、しかし妙に抜けた感のある登場人物たち。

今作の雰囲気は、津原泰水名義の作品中においてはかなりキャッチー、というか、より一般的な俗っぽさがある。なので、各人物のキャラ立ちをはっきりさせるための導入話『冷えたピザはいかが』なんかは、珍しく下世話な感触が印象として強く感じられるため、ん?なんか普通っぽいぞと思ったりしたのだが、やはり話が進むにつれその設定や描写にどんどんと独自色が加算されていき、気づけばいつもの如く、なんとも言えぬ磁場を放つ津原ワールドに包まれていく。

そんな中、とりわけ良かったのが最後の「大女優の右手」。ある人物の不可解な死を巡る群像模様が描かれていくのだが、物語のキーである、その女優の一つの疑惑を辿る過程で何度か登場する戦後の昭和光景の描写が非常に良い。アンタッチャブルな気配を強く匂わせるこの時代特有の空気は、怪しの幻想で、全体に高貴とも言える艶やかな絹のヴェールをかける津原作品の世界観(の一つ)を端的に表すようで、この話だけ取り包む空気が他とは全く異なっているようにも感じた。蒼い昂揚、とでもいうべく独特のモノがあります。
入っていけない

既発の2編を改稿し,書きおろしの1編をくわえた連作短編集です.

元は少女小説向けだったそうですが,意外にも本格志向のようで,
入れ替わりや,雪山山荘での密室など,『おなじみ』の題材ばかり.
かといって,むずかしくはなく,謎などもオーソドックスなようです.

しかし,主人公が持つという推理力や観察力がイメージできず,
それで解決したという過去の事件についてもフォローがないため,
感情移入がしづらく,ただ淡々と流れているような印象を受けます.

また,学園外での場面が多いせいか,学園ものとしても弱く,
ほかにも,遠まわりというか,もどかしく感じるところがあり,
読みづらくはないのですが,スムーズに入っていけませんでした.
あとは,『エレヴェータ』や『キイボード』など,独特の表現が….

ただ,書きおろしの3編目.こちらは裏の裏をかく真実や,
事件に隠された物語性と,なかなか楽しませてもらいました.



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